院長エッセイ集 気ままに、あるがままに 本文へジャンプ


開業9年目年を迎えて

 

 私事で恐縮だが、今年9月で開業9年目年を迎える。まだ開院したての気持ちが不思議と残っており、開業医としては「新参者」という意識がぬぐえない。がしかし、壁紙の剥がれや床タイルの黒ずみ、クーラーの水漏れ等々、9年という期間はハードウェアにとっては容赦なしである。診療においても時の流れの無情さ、あるいはその恩恵を感じることがある。いつも元気で通院されていた方が、ある時急に来なくなり、人づてに亡くなられたことを知る。泣いて暴れては困らされていた子供が、中学生となり、診察後「有難うございました」と礼儀正しく挨拶をしたりすると、ジーンときて目が潤む。

医師になってよかったと思うときは、患者様の笑顔を見る時であるが、開業してよかったと思うときは、職員の笑顔を見る時だと、先日気づいた。その日は医院を臨時休業にして(開院後初)、職員研修と称して、今帰仁でパーティー(らしきもの)を開いた、天気は雨模様で、マリンスポーツはお預けだったが、大鍋でのパエリア料理とバーベキュー。奮発した和牛に職員は舌鼓。ジャグジーとサウナ、トランポリン。(ダーツとビリヤードは次回)。職場でも笑顔が絶えない職員の、さらにとびっきりの笑顔に癒される。「楽しかったね〜。来年もやるかー」。細君が経理の手を止めて、電卓をポンポンと叩いた。

 

医院の花壇に水やりをしていると、ラジオ体操の広場へ向かう子供たちが、ぞろぞろと目の前を通り過ぎる。「おはようございます」大声であいさつすると、「おはようございます」とはにかんだ小声がかえって来る。8月に入る頃には子供たちの方から挨拶をしてくれる。どんな大人になってゆくのだろう? 優しい目をしている自分に気づきムッとする。「好々爺にはまだ早かろう」と首を横に振り、腰に手をあて背筋を伸ばすと、夏空に白い雲が浮かんでいる。「無理に若ぶることもないか」ふと悟ってしまう還暦の朝である。

 





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